2025/01/16
高血圧予防や健康管理のため、いま多くの方が減塩に取り組んでいます。しかし、「味が物足りない」「続けるのが難しい」と悩まれている方も多いのではないでしょうか。減塩は、誰にとっても必要なのか?何が正しいのか?このコラムでは、塩の製造で100年以上の歴史を持つ塩のプロが、減塩について再考しながら、そのヒントをお伝えします。
私たちの体にとって塩分は生命維持に不可欠な物質ですが、特に高血圧や腎臓への負担につながるとされ、WHOなども減塩を提唱しています。
各機関が設定する目標値を紹介します。
健康維持のための適正な塩分摂取量について、WHOは1日5g未満を推奨しており、日本では以下が設定されています。
※1厚生労働省「日本人の食事摂取基準(20年版)
※2高血圧学会の目安(2019年版)
※3慢性腎臓病に対する食事療法基準(2014年版)
実際の日本人の塩分摂取量はどうなっているのでしょうか。世界的な比較を通じて、現状を見ていきましょう。
日本人の塩分摂取量は、世界的に見ても高い水準にあります。厚生労働省の国民健康・栄養調査によると、日本人の1日あたりの平均塩分摂取量は以下となっています。
これは、WHOが推奨する目標値の約2倍に相当します。
※1:平成30年国民健康・栄養調査(20歳以上)
しかし、ここで、1つ考えたいことがあります。それは、日本が世界で1位2位を争う長寿国であり、かつての日本人の塩分摂取量は現在よりもはるかに多かったという事実です。
世界でもトップクラスの長寿国である日本ですが、興味深いことに現在の100歳世代が若かった1950年代は、現在の2~3倍の塩分を摂取していました。
当時は、米を主食としてたくさん食べ、肉などのおかずは今ほど多くありませんでした。今よりも体を使い、働いている方が多くいらっしゃいました。このような低タンパク食を基本とした生活では、米に含まれる大量の炭水化物をエネルギーに代えて使うのを可能にするために、塩が必要だったのです。
現代の60歳以上の世代は、依然として比較的高い塩分摂取量を維持していますが、この世代こそが日本の平均寿命を押し上げている立役者となっています。
肉のたんぱく質摂取を主とする欧米等に比べて、今でも私たち日本人は、米を主食としており、野菜や海藻を多く摂取する食生活を基本にしているという違いがあります。野菜や海藻・穀物には、カリウムが多く含まれています。カリウムには、ナトリウムを体から排出する働きがあります。カリウムが摂りすぎた分のナトリウムと一緒に尿として体から出て行ってくれるというイメージです。
日本食を、改めて見てみましょう。
主食はお米。パンや麺と違い、ご飯には塩が入っていません。カリウムも入っています。
みそ汁は塩分がありますが、大豆にも、ネギやほうれん草にも、また、特にわかめなどの海藻にはカリウムが多く入っています。
漬物は、野菜のカリウムと塩のナトリウムのバランスそのものです。
ご飯と一緒に食べる納豆にも、カリウムがたくさん入っています。
日本茶にも、カリウムが含まれています。
伝統的に形作られ、残ってきた食事は、自然と、体にとってバランスの良い構成が出来上がっているように思います。
塩の食べすぎは高血圧になる。これは、もはや常識のようになっています。
ただし、これに直接的に当てはまるのは食塩感受性(塩分摂取量の変化に対して血圧が敏感に反応する体質)の人です。実は半分以上が食塩抵抗性(食塩摂取量が変化しても血圧があまり変動しない体質)の人ですので、高血圧患者で食塩による血圧低下を期待できる人の方が少ないのです。まして、健康な人が無理に塩の摂取を減らしても、あまり健康のために効果はないのが実状です。
また高血圧の要因は複雑で、肥満やストレス、寒冷気候などが大きく影響します。単に塩分を減らすだけで健康になるわけではありません。
塩分の摂取に注意が必要なのは、食塩感受性高血圧の方や、心臓や腎臓に疾患のある方です。腎臓がカリウムと一緒にナトリウムの排泄をする機能がうまく働かなくなっていることがあるからです。
減塩調味料は塩の代替としてカリウムなどの成分が含まれているため、「腎臓の悪い方は医師にご相談の上」といった記載があります。腎臓の悪い方はとくに、ナトリウムだけでなくカリウムの摂取制限が必要ですので、注意が必要です。単に減塩調味料を使用するだけで健康になるわけではありません。
野菜や肉類には塩分排出を促すカリウムなどが自然な形で含まれています。食事全体のバランスを意識することから、本当に体のためになる減塩は始まります。
逆に必要以上の減塩は、低ナトリウム血症を招きます。
東北の地震の避難所で、体調が悪く、なかなか治らなかった人に塩分を摂らせたところ、すぐに元気になったという例があったそうです。塩分不足が、意外に体調不良の原因になっていることもあるのです。
このように考えるとわかってくることは、ただ単に、塩の摂取量を減らせばよいわけではなく、体の中にちょうど良い塩分があるかどうかが大切だと言えるのではないでしょうか
この代表的な現象が、昨今夏になると叫ばれる熱中症です。暑い時、よく運動をする方、お酒を多く飲む方、などは塩分の減らしすぎにも注意しましょう。
実は高齢者も、減塩には注意が必要です。
腎臓には、体内に塩が足りないと尿中のナトリウムを体に戻し、ナトリウムを排泄しないようにする働きがあります。それほど、体にとってナトリウムは重要なものなのです。若い時はこれがうまく機能しますが、年を取ると腎臓の機能も落ちるため、必要以上に頑張って減塩すると、尿から必要なナトリウムも出ていってしまい、低ナトリウム血症を引き起こす危険があります。熱中症と同じようなことになり、危険です。
食事の摂り方、運動量、汗のかき方、体の機能、誰もが同じではありません。
このように考えるとわかってくることは、ただ単に、塩を摂取する量を何グラム減らせばよいというわけではなく、体の中にちょうど良い塩分があるかどうかが大切だと言えるのではないでしょうか。体の中で働く塩分量は、摂取量と、一緒に摂った食品や運動量などの違いで排泄した量、差し引きの結果です。
忙しい、便利な世の中では、私たち日本人の食生活も、変わってきています。
外食や加工食品、出来合いの〇〇の素などの調味料は、どうしても、味が濃くなりがちで、塩分量も多くなってしまいます。
減塩の原点を考えるとき、本来の日本食に立ち返ってみるのが良いと考えます。
塩分のないごはんが主食。しかも玄米なら、ナトリウムを排出するカリウムたっぷりです。みそ汁の具や煮物、酢の物、漬物など、副菜に野菜や海藻をたっぷり食べ、塩分があってもカリウムとのバランスが良く、メインの副菜に魚や生姜焼き、とんかつなどのたんぱく質が加わる。
昭和の時代に私たち日本人が食べていた、普段の和食こそ、理想の塩分・栄養バランスと言えないでしょうか?
和食の味付けは、決して濃くありません。出来合いの濃い味付けで満足するのではなく、食材が持つうま味や甘みを感じる本体の日本料理が、減塩のキーポイントと言えます。
料理における塩の本来の役割は、塩味を付けるのではなく、肉や野菜、出汁のうま味を引き出すこと、野菜の甘みを感じさせることです。
味覚は本来、体に必要なものを選別するためにあります。自然の恵みである食材の味を味わい、「ああおいしい」と感じる塩加減、それが、今体が欲している塩の量だと言えるのです。
塩の種類は、どれを選べば健康で、どれを選ぶと不健康、と言うことはありません。どれも塩分と言う意味では大きく変わりはありません。
減塩、という問題提起から、これまで見てきた視点で考える時、まずいえることは、出来合いの食品や味付け調味料に頼るよりも、基礎調味料を適切に使って食材の味を楽しむ食事が、適塩につながるということです。このように、自然のうま味を味わうために選ぶなら、塩味が強すぎず、素材の味や食感をじょうずに引き出せる、浸透性や溶解性に優れた塩が良いでしょう。
心臓や腎臓の悪い方は、通常よりも塩やカリウムの使用量を制限しなければなりません。
外食や出来合いの総菜で済ませるときは、
などの工夫が、濃い味付けで過剰になってしまいがちな塩分をコントロールするためにおすすめです。
食事のときには
などの工夫で、塩分を減らすことができます。
調理や食事の工夫で、無理なく適切な塩分を摂ることができます。また自宅で使う塩を選ぶ際は、素材本来の味を引き出すまろやかな塩を選び、調理することで、適正な塩分とともに必要な栄養素を摂ることができるでしょう。
世界自然遺産に指定された清浄な海域の天日塩を原料とし、伝統的な平釜直火製法で丁寧に作られた「あらしお」は、まるみのある味わいで、素材の持ち味を最大限に引き出します。詳しくは公式サイトをご覧ください。